みそっかすの放浪日記

みそっかすでも生きている!30代半ばの独身女のつぶやきをあなたに。

外国人レスラーと日本語レッスン。棚ぼた的に夢が叶ってしまった話

両国でのビッグマック

私は昨年の夏からプロレスを見るようになった。
ハマって以来、数ヶ月に1回、1人会場に乗り込み、ぽっちゃり体型の男が多いプロレスファンの中で、BBAが声を枯らして叫ぶ生活を送るようになった。

プロレスファンというと周りの反応はたいてい無関心なのだが、会場に行くと、老若男女、若いギャルから乳飲み子までいたりする。
だんだん見始めて行くと、「推し」というものができてきて、彼らのインスタやTwitterをフォローしたり、投稿をみたらいいね、を押すのが日課となっていた。
私のインスタのフィードはほぼムキムキ男か、アルゴリズムが「お前こんなん好きだろ?」と引っ張り出してきた巨乳の美女たち、ステーキや焼き肉などの肉の塊で埋め尽くされている。
ほぼ肉と肉欲だ。

完全にインスタのアルゴリズムは私のことを大食い・金髪巨乳好き・プロレス好きのアラフォー男と勘違いしている。

私は団体問わずプロレスラーと呼ばれる人はだいたいフォローするようになっており、とりあえず投稿がおもしろかったらスタンプやいいねを押してる。
ある時、滅多に光らない私のインスタに、1通のDMがきていた。

あるときDMがきた


開いてみると、フォローはしたものの、よく知らないプロレスラーから

「日本語教えて!」とメッセージがきていた。
なんで私が日本語教えてるとわかったんだ・・?と思ったが私のインスタ名に日本語教師がついているので、相手も私が先生だと思った様子。

私の中でプロレスラーはもはやお笑い芸人の次に尊敬する職業人となっていたので、困惑したと同時に正直めちゃめちゃ興奮した。
相手の知名度なんてどうでもいい。
ネットで調べてみると、わりかし女性ファンもしっかりいて、中には独占欲強めな人たちもいた。
私の中でプロレスラーは銀幕のスターと同じだ。
もしかしたら彼氏になるかもとか私のもの、と自分ごとに考えられる彼女たちには少し恐怖を覚えた。
触るなんて恐れ多い。

この人たちからしたら、このレスラーが頼めば何でもしてあげるだろう。
それがなんで..全く教師として売れていない、影響力も何もない私にメッセージしてきたのか。まあ遊び相手を探してるとか、何かの冗談だろう、と思い、メッセージにいいねだけ押してスルーした。

数時間後、さらにメッセージがきていた。
「金払うから教えろ!」

ときてたのでお?これはもしかしたらイケるのか?と思い恐る恐る返信してみることに。

質問事項としては、日本語を勉強したことがあるのか、文字が読めるのか、どんな日本語を勉強したいのか、など質問をしたところ、また数時間後返事がきていた。

文字は読めない、日本語ちょっと知ってる、テキストは必要、週2、3回くらいやりたい。

文字が読めない人に教えたことがないのでちょっとプレッシャーだったが、プロレスラーに教えるなんて私にとっては夢みたいなこと。
何よりもやってみたい!という気持ちが優っていた。

しかしこの人・・・自分からレッスンしたいと言っておいて全然アクションを起こさないのが気になった。
2、3日後、私から「よかったらトライアルレッスンしますよ」と言うとやろう!という話になるのだが、肝心の日程を押さえようとすると返事が途絶える。

この時点で、「なに、こいつ・・?」
不信感がだんだん湧いてイライラしていた。
正直やりたいと言ったのは相手だし、私は一切なんのアピールもしていない。
私がプロレス好きなの知っててナメてる?一体どういうこと?
それからの1週間はまるでマンネリカップルのような、連絡をよこさない彼氏を待つかのように、インスタを開いては閉じ、の日々を過ごすのに本当に嫌気がさした。
昭和の歌詞のように待つ女にはなれない。私は待つのが嫌いだ。
だんだん、私の中でそのレスラーはクソ野郎と化していた。

来週の何曜日かやっと決まったと思ったら、時間を聞くとまた2日ほど放置され、時間が決まったのがトライアルの前日の夕方。
翌朝にZoomのリンクを送ると即既読になった。相手のこの勝手さにちょっと引いた。

若干うんざり気味だったが、レスラーだし、個人契約でお金が入る大チャンスと思って割り切ろうとした。

しかし不安は募るばかりだ。
相手がムキムキ外国人以外どんな人かもわからないし、(印象はこの時点でかなり悪いが)
ゼロ初級者だから、自分が英語で全てリードしないといけない。英語話者相手に。これはプレッシャーだ。
あとは、申し訳ないが欧米人の初級者を教えた経験があまりないのでとにかく当日を迎えるのが怖かった。

英語で全て説明できる自信がなかったので、英語のスクリプトを作り、とりあえず読みながら自分でも流れを確認するが、声が震えて蚊が鳴くような細い声になっていた。情けない。

この1週間いろいろな感情がぐちゃぐちゃになっていたこともあり、なかなか寝付けなかった。相手がレスラーじゃなかったらこんなふうにならなかったのに。なんか悔しい。

レッスン当日


じつはこの日、この人以外にもトライアルがたまたま2件入っており、いつもより余計緊張し、人疲れしていた。
やっぱり知らない人と話すのは教える側だって毎回緊張する。
そしてとうとう、プロレスラーとの約束の時間になった。
ちゃんと時間通りに現れるのか不安もあったが、リングネームの人物からZOOMに入室があった。
トントン!というZOOMのあの通知音を聞いた時、ぎゃっ!と咄嗟に小さく叫んだ。
いよいよ、相手が現れる!もうどうとでもなれ!いくぞ!おらー!

レスラー、死んだ目で現れる


音声がなかなかつながらず、1分ほど待ったのち、レスラーは現れた。
おお、映像で見たあの人。
ただ目が死んでいる・・。
お時間ありがとうございます、と言ったところむこうもおお、ありがとう、と。
明らかにだるそうだし眠そうだったのでおもわず「今眠いですか?」と聞いてしまったところ、”Always.”と堂々と一言返ってきた。どうやら毎日昼まで寝てるらしい。30代半ばで、昼まで寝てるってよく堂々と言えたな。

プロレスラー的には、期待を裏切らないとでも言えるのか?
じゃあまずはお互い自己紹介をしてからレッスンをするので、簡単に自己紹介をお願いします、とふってみた。(もちろん英語で)

あープロレスラーで、〇〇(その人の出身国)からきて、日本でもたまにプロレスやってる・・。

・・・・・。

え?それだけ?!

思った以上に喋らないのでこちらも緊張してくる。
流石に短すぎるので、
「えっと〜趣味とか休日何してるんですか?」と聞いたところ
「あージムとか温泉とか〜(なんか色々言ってたけど忘れた)」と、だるそうに回答。

気まずいまま、私も自己紹介をした。
何人かプロレスファンの生徒がいる、ということと、1人旅が好きってところだけには反応を示してくれ、どこがよかった?と質問されたのでインドと答えたところ、全くと言っていいほど反応が薄かった。
俺は今までどこどこに行った、といろんな国を挙げていたが、プロレスの遠征とプライベートでかなりいろんなところに行った感じだった。

それからテキストを提案して、どれくらい本気なのか確認する。
どうやら本気というよりかは最低限の会話ができたらいい、ような感じだった。
「俺は歳だし、Fucking頭が悪いし(みたなことを言ってた)、自分1人では勉強できねーんだ。だから誰かの助けが必要なんだ。なんたらかんたら」言い訳してた。
初対面の相手(素人)にナチュラルにファックを言ってたのにもびっくりした。
今もヒールを演じてるのか?この人。
それでも緊張してたのであんまり相手の言ってることに反応する余裕はなかった。

とりあえず気を取り直して日本語の自己紹介からスタート。
ゼロ初級の場合、

私は(名前)です。
(国籍)人です。
(職業)です。
よろしくお願いします。

から始まる。

この人の場合、職業がプロレスラーなので、カタカナのプロレスラーを言ってもらうが口が回らず「プルレスロー」とかなかなか苦戦。
そう、プロレスラーって、外国人が苦手な日本語の”ら行”満載の単語なのだ。

日本語のR発音はこうだよ、と手で上顎と舌を作り、示しながら、らりるれろを言わせる。
ちょっとこのときは「ああ〜私プロレスラーに日本語教えてるーー!」って若干興奮した。

知ってる日本語が下ネタ

それにしても、この人全然笑わない。
声もずっと低いし、目に覇気がないし人間味を感じない。人でなし感が漂う。
でもファンの間では優しい人ということになっているらしい。
目の前のこの姿をファンはどう思うだろうか。

ああ、やりにくいと思いながらも、次はあいうえお、を教えてみる。
私も文字を知らない人をおしえるのが初めてなのでどんなもんかわからず緊張。
この時、アイパッドを接続したりとちょっと待ってもらってる間に、ちょっとした雑談で、知ってる日本語ってなんですか?と聞いてみたところ、第一声が

小さいチ○チ○。

イケボな低い声で下ネタ・・。
その瞬間え、下ネタ?と言いそうになったが、余裕がないので愛想笑いで終わった。
もしかしたら笑わそうとしたのかもしれないが、ふつうに変態発言。
私、髪はベリーショートだけど、一応女なんですけど。
あとは知ってる単語も、プロレスの現場で聞くような罵り言葉とか、くだらないものばかりで「はあ」としか反応できなかった。ちょっと日本語知ってるって言ってたけどほぼ知らないに近かった。

あいうえおを教えるも・・


まずはあいうえお、は母音ですよ。他の音は母音と子音を合わせたコンビの音なんですよ。から説明。
私はサイレントウェイという手法でこのあいうえお、を試してみた。
ちなみに本当に初めてでやったことはない。
最初からローマ字を使って教えるのではなくて、教師はできるだけ喋らずに、ヒントを出しながら、学生は文字をみて、推測して自分の頭で考えて答える手法。

あいうえお、をやっている途中でレスラーが突然中断。
「あいうえお、の音はわかるんだけど、文字がなんでこうなのかがわからない。」などと言い出し、自分が持ってるローマ字入りの50音表を勝手に出してきた。
音と文字が頭の中でつながっていないのはわかるけど・・。

「最初はローマ字をみてもいいけど、英語と日本語の発音は全然違いますから、日本語の音を覚えてください」と説明。

それでも、え、の音をローマ字のeを見て「い」と読み出し、これは「え」ですよ〜と説明。話聞いてる?笑。

そしたらまた途中から「”え”、と”お”が同じに見える。」と言い出したので、「似てるけど同じじゃないです、とにかく書いて覚えてください。」と説明。

正直、30分のトライアルがこんなに長いと思う日は初めてだった。
クロージングは英語で自分でも何を言っているのかわからなくなっていたがなんとか終わりに近づいた。
そのときレスラーから言われたのは”You, made it.”か"You nailed it"のどっちか。朦朧としてたのではっきり覚えてない。
とりあえずよくやった的な、褒められたのか?と思い「はあ、ありがとうございます」とだけ言った。
のちにプヲタ生徒さんに聞いたところ、made itの場合、ドライジョークと言われるもので、「お前、よく耐えたな」って皮肉で言ったんじゃないかとのこと。

確かにこんな一切笑わない態度悪い人によく耐えたわ。まあ、もしやりたいんだったら連絡くださいと言ったところ、やる気はあるようで、金も払うと言ってた。
内心ガッツポーズだったが、1週間経った今、なんの音沙汰もない。
その代わり数日前、なぜか今Vowels(母音)とカ行を覚えている、とだけ連絡がきた。
学習状況はいいから、金は?
やるやる詐欺かよ・・いい加減にしてくれ。

とりあえず・・仕事に繋がらなかったのかもしれないが、レスラーに日本語を教えるというちょっとした夢は叶った。

彼を教えていて気づいたのは、日本人が当たり前に読めるひらがなを覚えるということだけでも欧米系の人たちにとっては本当に大変な労力がかかるということ。
彼らにはひらがなは本当に難解な文字にしか見えないのだ。
しかも日本語の場合、文字を覚えないと、会話練習に進めない。
ひらがな、かたかな、漢字という3大文字を覚えるというタスクは、大人になればなるほど面倒で大きいタスクだ。

彼はあいうえおの時点で挫折しかけていた(ように見えた)ので、正直諦めずに続けていると連絡がきたのは少しほっとした。

あとは、教えていて、やっぱり中級から上級の生徒の会話練習よりも、ゼロから上に伸ばしてあげたり、サポートしたりする方が好きだなという気づきを得られた。


変な人を興味の対象として面白がってしまうのが私の悪い癖で、ニヤニヤしながら一部の英語の先生や周りにこの話をしたところ、みんな彼の態度にはドン引きしていた。え、何その人意味わかんない。普通に失礼じゃない?と真顔で返された。
正直、彼の態度は社会人として良くないし、10代の子とレッスンしていた気分だった。
演じてたのかあれが素だったのか・・私はちょっと警戒されて演技が入ってたんじゃないかと思う。素だとしたら変わった人だと思う。

彼が生徒になってくれたら苦労もしそうだし、なんか面白そうな気もすると懲りてないのが私もタチが悪い。
とりあえずこの人は自分で何かを決めるのに、かなりのめんどくさがりっぽいので期待せずに・・でもやっぱりちょっと期待して数%の希望にかけようと思う。

レスラーに教えるのはいいが、ちょっと一癖も二癖もある人がくるあたり、私はある意味、持ってるなぁ、と思う。

いや、本当、あの人なんで日本語勉強したいんだろう?
もし次会える機会があったら、最後に笑ったのはいつか聞いてみたい。