【音楽レビュー】橘いずみ「失格」を久しぶりに聞いてみた
私は昔から思った事を言えない子供だったからか、メッセージ性の強い音楽や芸術にひどく憧れた。と言っても皆が知らないマイナーなものでもなく、メジャーなものだけどね。
高校生の頃は尾崎豊やブルーハーツに共感して歌詞カードを何度も何度も読み返したりして。(ちなみにリアルタイムじゃないです。)
大人になってからも親の影響もあるのか、70年代の歌謡曲やフォークの曲の壮大なストーリー性、歌詞を見なくても聞き取れる明瞭で純粋、偉大な作詞家によるドラマチックな歌詞に酔いしれている。
いくつか、自分の人生のテーマになる様な曲がある。
それが橘いずみの「失格」だ。
橘いずみさんを知ったのは昔少し流行った漫画(後にドラマ化)「モテキ」で知った。
丁度その時、私は色々なことをやっては失敗を繰り返し、仕事も続かず病んでしまい実家の狭い部屋の中で、これからどうすればいいかわからず病んでいた暗黒時代だった。
そんな時に偶然youtubeで出会ったこの曲「失格」。
まずタイトルがいい。二文字の漢字のインパクト、そしてコンパクト感。
最初の歌詞から心を鷲掴みにされた。
自分の言いたいことを私は何も言わない
自分のやりたいことを私は何もできない
自分の為に泣いても人の為には泣けない
主義・主張を叫んで外を歩く勇気なんかない
早口で流れる言葉たち。
まず最初の1,2行を聞いた時にまさに自分の事を歌っている!
狭い部屋で寝間着を着ながら病んでいる自分に衝撃が走った。
この歌詞の主人公の様に私も本当にそう思ってた。自分には何の力もないと。
主人公の「私」に対する絶望と、まだこんなものじゃない、と思い直すわずかな希望、面倒くさい自分との向き合い。
何かを変えたい、でも何がしたいかわからないし、自分のポリシーと言えるものもないし才能もない。でも当時まだ20代。まだ動ける、でもどうしたらいいかわからない、自信がない怖い。のループで1日が過ぎる毎日。
仕事はしてたけどいつも頭と体が重かった。
当時の事を思い出すと辛いけど、どのことばも当時の自分に刺さったし、小さな支えになっていた。なんとか踏ん張って生きてたな。
不思議なのがこれだけ早く歌っていても歌詞が頭の中に入ってくるんだよね。
あなたは失格! そうはっきり言われたい
生きる資格がないなんて憧れてた生き方
この曲をよく電車の中で聞いていたけど「失格」という強い言葉になぜか安心感を覚えていた。誰かに失格と言われた方がいっそ楽になれると思っていた。(どんだけ病んでたんだ当時の自分。)
この歌詞の中には誰もが過去に経験したチクっとしたことがいっぱいあると思う。
言葉のセンス、そしてこの長文早口な歌詞をメロディに載せられるのがすごい。
あこがれてカラオケで息継ぎをゼーゼー言いながら歌ってみたこともある。
まず、相手はこの曲を知らない人が多いのでいきなりのShowに唖然とするか、爆笑するかだ。
現在も現役で歌っていて、かっこいいなぁと思った。
今はご結婚されてお子さんが2人いるらしいが、母ちゃんがシンガーソングライターってかっこよすぎる。
あの狭い部屋で病んでいた5年前。もうどこにも出て行くことができないと絶望していたあの時。
今思えばあんなに病む時間があるならワーホリでも行っておけばよかったと思う。
ただ、今はもうあの部屋に私はいないし戻ってはいけないな~とこの曲を聴きながら思う。